「SaaSのKPIって、何を見ればいいんだろう?」
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SaaSビジネスに関わる方の多くが、KPIの設定や改善に頭を悩ませているのではないでしょうか。
適切なKPIを設定し、継続的にモニタリング・改善を行う重要性は、いうまでもありません。
しかしながら、SaaS関連のKPIは多岐にわたります。どのKPIに注力すべきか、判断に迷うシーンは少なくないでしょう。
そこで本記事では、SaaSビジネスで「これは絶対に押さえておきたい」という7つの厳選KPIを、掘り下げて解説します。
- MRR(月次経常収益)
- CAC(顧客獲得コスト)
- LTV(顧客生涯価値)
- チャーンレート(解約率)
- リテンションレート(顧客維持率)
- MAU(月間アクティブユーザー数)
- NPS®(ネット プロモーター スコア)
ご一読いただくと、自社に適したKPIを選定し、データに基づく意思決定を行えるようになります。
SaaSビジネスの堅実な成長に向けた第一歩を、ぜひ本記事から始めてみてください。
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1. SaaSのKPI(1)MRR(月次経常収益)
さっそく、SaaSの代表的なKPIである「MRR」から見ていきましょう。
1-1. CRMの意味
MRR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)とは、毎月一定して繰り返し生じる収益を指します。
SaaSビジネスでは、ユーザーから毎月一定の金額を受け取るサブスクリプションモデルが一般的です。よって、MRRは、事業の安定性や成長性を測る重要な指標となります。
1-2. MRRの計算式
MRRの最もシンプルな計算式は、以下のとおりです。
MRR = 月額料金 × 利用顧客数
たとえば、月額利用料が1,000円のサービスを500人のユーザーが利用している場合、MRRは以下のように計算されます。
MRR = 1,000円 × 500人 = 500,000円
ただし、実際には、新規顧客・解約顧客・プラン変更など、さまざまな要因を考慮するため、計算式はもう少し複雑になります。
詳しくは、以下の記事にてご確認ください。
1-3. MRRから読み取れること
MRRは、SaaSビジネスの安定性や将来性を測る上で欠かせない指標です。
MRRの推移を注意深く観察することで、事業の現状や将来の見通しを把握できます。
- 事業の安定性:MRRが高水準で推移していれば、安定的な収益基盤があると判断できます。MRRが低迷していたり、大きく変動したりしている場合は、事業の安定性に不安があるサインかもしれません。
- 成長スピード:MRRの増加率を追跡することで、事業の成長ペースがわかります。月次や四半期ごとのMRRの伸び率を確認し、目標とする成長曲線に沿っているかどうかを評価しましょう。
- 顧客の定着率:MRRが順調に積み上がっていく背景には、顧客の継続利用があります。MRRの増加は、顧客の満足度が高く、解約率が低いことを示唆しています。反対に、MRRが頭打ちになったり下降したりする場合は、顧客離れが起きている可能性があります。
1-4. MRRの改善策
MRRを改善するためには、収益の柱となる既存顧客の維持・拡大と、新規顧客の創出の両輪に注力する必要があります。
顧客のニーズや市場の動向を的確に捉えた、戦略的な施策展開が重要です。
- 顧客維持施策の強化:解約率を低減するためには、顧客満足度の向上が不可欠です。製品やサービスの品質向上に加え、顧客サポートの充実化や、ユーザーコミュニティの活性化などにも取り組みましょう。
- 価格戦略の最適化:製品やサービスに対して、顧客がどれくらいの価値を感じているか、いくらなら支払ってもよいと思うかを見極めます。競合他社の動向や、価格変動に対する需要の変化の度合い(価格弾力性)も考慮に入れて、価格体系の見直しや新プランの導入を検討しましょう。
- アップセル(上位プランへの誘導)/クロスセル(関連サービスの提案)の促進:顧客の利用状況やニーズを分析し、上位プランへの移行や関連サービスの追加購入を促すアプローチを行います。それぞれの顧客のゴールや課題に合わせて、きめ細かなコミュニケーションを取ることが大切です。
- 新規顧客開拓の加速:MRRの成長には、新規顧客の創出が欠かせません。リードジェネレーション(見込み客の創出)から、トライアル促進、オンボーディング(導入支援)まで、一貫した顧客開拓の仕組みを構築しましょう。
以下の記事も、参考にご覧ください。
2. SaaSのKPI(2)CAC(顧客獲得コスト)
SaaSビジネスにおいて、新規顧客の創出は成長の鍵を握ります。
顧客獲得にかかるコストを表す「CAC」について、詳しく解説していきましょう。
2-1. CACとは何か
CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得コスト)とは、新規顧客1人を獲得するために必要なコストを指します。
CACは、SaaSビジネスにおける顧客開拓の効率性を測る重要な指標です。マーケティングや営業活動に投資した費用が、どれだけ効果的に新規顧客の増加につながっているかを示しています。
CACの類義語として、日本語で「顧客獲得単価」と訳されるCPO(Cost per Order)やCPA(Cost per Acquisition)があります。
CPOやCPAは広告費に焦点を当てた指標で、「広告費 ÷ 獲得顧客数」で計算されます。つまり、顧客創出の一部分のコストしか捉えていないのです。
一方、CACを重視する意義は、顧客創出に関わる全体的なコストを把握し、投資対効果を総合的に評価できる点にあります。
CACと、後述のLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を比較することで、顧客獲得が長期的に見て収益性のある投資なのかどうかを判断できます。
2-2. CACの計算式
CACは以下の計算式で求められます。
CAC = 顧客獲得のための総コスト ÷ 獲得した新規顧客数
CACは、ある一定期間に投資したマーケティングおよび営業の合計コスト金額を、その期間に獲得した顧客の数で割って算出するのが一般的です。
たとえば、ある企業が1か月間にマーケティング費として200万円、営業費として100万円を投じ、その結果50人の新規顧客を獲得したとします。
この場合、CACは以下のように計算されます。
CAC = (200万円 + 100万円) ÷ 50人 = 6万円
2-3. CACから読み取れること
CACから読み取れることは、以下のとおりです。
- 顧客開拓の効率性:CACが低いほど、少ないコストで効率的に顧客を創出できていることを示しています。逆にCACが高い場合は、顧客創出の効率が悪く、新規顧客コストが収益を圧迫している可能性があります。
- マーケティング・営業施策の有効性:CACの推移を追跡することで、各施策の効果を定量的に評価できます。CACが下降傾向にあれば、施策が奏功していると判断できますが、上昇傾向にある場合は、施策の見直しが必要かもしれません。
- 事業の収益性:CACとLTVを比較することで、顧客開拓が長期的に見て収益性のある投資なのかどうかを判断できます。LTVがCACを上回っていれば、新規顧客施策が収益性のある投資といえますが、逆の場合は事業の収益性に問題がある可能性があります。
CACは単独でも重要な意味を持ちますが、ほかの指標と組み合わせることで、さらに価値のある洞察につながります。
たとえば、CACとLTVの比率(LTV/CAC比)は、顧客獲得投資の収益性を示す重要な指標です。
LTV/CAC比 = 顧客生涯価値(LTV) ÷ 顧客獲得コスト(CAC)
※LTVの計算式は次のセクションで解説します。
一般的に、LTV/CAC比が「3」以上であれば、健全な投資と考えられています。
例として、あるSaaS企業のLTVが15万円、CACが5万円だった場合、LTV/CAC比は以下のように計算されます。
LTV/CAC比 = 150,000円 ÷ 50,000円 = 3
また、CACと、後述するチャーンレート(解約率)を組み合わせることで、顧客獲得と維持のバランスを評価することもできます。
チャーンレートが高い場合、せっかく獲得した顧客が早期に流失してしまい、CACが無駄になってしまう恐れがあります。
2-4. CACの改善策
CACを改善するためには、顧客創出のプロセス全体を最適化する必要があります。
各施策の効果を最大限に引き出しつつ、無駄なコストを削減することが重要です。
- ターゲティングの精度向上:顧客のペルソナ(典型的・代表的なユーザーを具体的に描写した人物像)を明確にし、ターゲットとする層に的確にリーチします。関心や課題に合致したメッセージを届けることで、高い効果が期待できます。
- 広告運用の最適化:広告の配信設定や予算配分を細かく調整し、費用対効果を高めます。広告プラットフォームの機能を活用して、適切なユーザー層に広告配信するとともに、広告クリエイティブ(コピーや画像)の改善にも、継続的に取り組みましょう。
- ランディングページの改善:広告をクリックしたユーザーを効果的に誘導し、コンバージョンにつなげます。ランディングページの設計や導線を最適化し、ユーザーにとって魅力的でわかりやすいページを作ることが大切です。
- リファラル(紹介)プログラムの導入:既存ユーザーからの紹介により、低コストで新規顧客を増やす仕組みを作ります。紹介料の設定や、ユーザーにとってのメリットを明確にすることで、プログラムの効果を高められます。
- インサイドセールス(電話やメールなどを使った営業活動)の強化:見込み顧客へ適切にアプローチし、顧客化を進めます。見込み客のニーズや課題を深く理解し、タイムリーかつ的確なコミュニケーションを取ることが求められます。
これらの施策を組み合わせ、PDCAサイクルを回すことで、CACの継続的な改善につなげていきましょう。
CACについて詳しくは、以下の記事をご覧ください。
3. SaaSのKPI(3)LTV(顧客生涯価値)
SaaSビジネスにおいて、顧客との長期的な関係性は非常に重要です。
顧客がもたらす生涯価値を表す「LTV」について詳しく解説します。
3-1. LTVとは何か
LTV(Lifetime Value:顧客生涯価値)とは、顧客が生涯にわたってもたらす価値を指します。
顧客が初めて製品・サービスを購入したときから、その関係が終わるまでの全期間にわたり、1人の顧客が企業にもたらす金銭的価値の総和が、LTVにあたります。
LTVの計算プロセスは、企業やビジネスモデルによって異なりますが、「売上高から顧客関連コストを差し引いた利益」とするのが一般的です。
3-2. LTVの計算式
ここでは、SaaSビジネスにおいて一般的な計算式をご紹介しましょう。
LTV = (ARPU − 顧客関連コスト) × 顧客生涯期間
- ARPU(Average Revenue Per User):顧客1人あたりの平均収益
- 顧客関連コスト:顧客サービスや製品の提供に直接かかるコスト
- 顧客生涯期間:顧客が自社と関係を持続する平均期間
たとえば、顧客が平均して2年間(24か月間)サービスを利用し、月額サブスクリプション料金が1,000円、顧客1人あたりの平均顧客関連コストが毎月200円だった場合、以下のように計算されます。
LTV = (1,000円 − 200円) × 24か月 = 19,200円
3-3. LTVから読み取れること
LTVは、長期的な顧客との関係を重視する視点から生まれた指標です。
別の表現をすると、「1人の顧客が長期的に生み出す期待収益の観点から、“顧客関係の価値” を定量的に示した数値がLTV」といえます。
具体的にLTVから読み取れる情報として、以下が挙げられます。
- 事業の成長可能性:LTVを把握することで、事業の成長可能性を評価できます。LTVが高く、顧客数の増加とともにLTVも伸びていれば、事業の成長が見込めると判断できます。一方、LTVが低い場合は、ビジネスモデルの見直しや改善が必要です。
- 顧客関係構築の成否:LTVが高ければ、顧客との強固な関係が築けているといえます。逆に、LTVが低い場合は、顧客との関係性に課題があると考えられます。施策の改善や顧客関係管理ツールの見直しが必要です。
- 顧客セグメント(顧客群)別の評価:顧客セグメントごとにLTVを算出することで、どのセグメントが最も価値が高いかを特定できます。セグメント別のLTVを比較し、優先的に注力すべき顧客層を見極めます。
- 創出している新規顧客の質:新規顧客のLTVを見ることで、獲得している顧客の質を評価できます。高いLTVの新規顧客を創出できているかどうかを確認し、マーケティング施策の有効性を判断します。
- サービスの価値:LTVが高いということは、顧客がサービスに長期的な価値を感じ、継続して利用していることを意味します。したがって、LTVはサービスの価値を反映しているといえるでしょう。
3-4. LTVの改善策
LTVを向上させるためには、顧客との関係性を強化し、一人ひとりの顧客からの収益を最大化するための施策が求められます。
- 顧客満足度の向上:製品やサービスの品質を継続的に改善し、顧客のニーズや期待に応えることで、満足度を高めます。具体的には、利用者の声に耳を傾け、フィードバック(意見や感想)をサービス改善に反映させましょう。
- カスタマーサクセス(顧客の成功を支援すること)の強化:専任のカスタマーサクセスチームを設置し、顧客の成功をサポートします。定期的な状況確認やオンボーディング(導入支援)の徹底、ユーザートレーニングの提供など、顧客の目標達成をきめ細かくサポートすることが重要です。
- 高LTVセグメントに集中する施策:LTVの高い顧客セグメントを特定し、そのセグメントからの新規顧客開拓を設計します。顧客化した後も、そのセグメントの特性を分析し、ニーズに特化した施策を展開することが有効です。たとえば、上位プランへのアップグレードを促進したり、特別なサポートやイベントを提供したりすることで、高LTVセグメントとの関係性をさらに強化できます。
4. SaaSのKPI(4)チャーンレート(解約率)
SaaSビジネスにおいて、顧客の解約は大きな痛手となります。
顧客の解約率を表す「チャーンレート」について見ていきましょう。
4-1. チャーンレートとは何か
チャーンレート(Churn Rate)とは、一定期間内に、自社のサービスや製品を解約して利用を止めた解約顧客の割合を指します。「解約率」や「顧客離反率」とも呼ばれ、既存顧客の減少を示す重要な指標です。
サブスクリプション型ビジネスのSaaSでは、顧客との長期的な関係性が収益に直結するため、チャーンレートの抑制は、非常に優先度の高い課題となります。
チャーンレートは、月次や年次など、一定の期間を定めて計算します。計算式は、以下に続きます。
4-2. チャーンレートの計算式
チャーンレートは、期間内に解約した顧客数を、期首の顧客数で割ることで算出されます。
チャーンレート = 解約顧客数 ÷ 期首の顧客数 × 100
たとえば、月初に1,000人の顧客がおり、1か月で50人が解約した場合、月次チャーンレートは以下のように計算されます。
月次チャーンレート = 50人 ÷ 1,000人 × 100 = 5%
4-3. チャーンレートから読み取れること
低いチャーンレートは、顧客が製品やサービスに満足し、継続的に利用していることを示しています。
一方、高いチャーンレートは、顧客維持に問題があり、解約の原因を特定し、改善策を講じる必要があることを示唆しています。
具体的には、以下が読み取れます。
- 顧客満足度:チャーンレートが低いほど、顧客が満足していることを示しています。高い顧客満足度は、継続的な利用や口コミによる新規顧客の増加につながります。逆に、チャーンレートが高い場合は、顧客満足度が低く、製品やサービスの改善が必要であることを示唆しています。
- 競合他社との比較:同業界における競合他社のチャーンレートと比較することで、自社の顧客維持の状況を相対的に評価できます。競合他社よりもチャーンレートが高い場合は、製品やサービスの競争力が弱いことを示唆しており、顧客維持のための差別化要因を強化する必要があります。
- 解約理由の傾向:チャーンレートの推移とあわせて「解約理由」を調査することで、解約顧客の心理や解約に至った背景を深く理解できます。解約理由の理解は、製品やサービスの改善点や、顧客コミュニケーションの最適化に不可欠です。
- 長期的な事業の安定性:チャーンレートが高いと、事業の安定性が損なわれます。新規顧客を増やしてもすぐに解約されてしまっては、コストに見合った利益を上げることができません。
4-4. チャーンレートの改善策
チャーンレートを改善するためには、顧客の解約理由を詳細に分析し、優先順位を付けて対策を講じることが重要です。
以下に実践例をご紹介します。
- 解約理由の分析と対策立案:解約したユーザーにアンケートやインタビューを実施し、解約理由を詳細に把握します。得られたフィードバックをもとに、優先順位の高い課題から対策を立案し、実行に移します。
- 顧客セグメント別のアプローチ:ユーザーを属性や利用状況に応じて区分し、セグメント(顧客群)ごとに解約リスクを分析します。各セグメントの特性を踏まえて対応することで、効果的な解約防止策を実行できます。
- 解約リスクの察知と素早い対応:利用頻度の低下や、ユーザーアンケートの調査結果、ネガティブな意見・問い合わせなど、解約の兆候をいち早く察知します。リスクの高い顧客に対しては、個別のアプローチを行い、顧客の抱える課題や不満を解消して、解約を防止します。
- 休眠ユーザー(一定期間利用のないユーザー)の再活性化:休眠ユーザーに対して、特別オファーやキャンペーンを実施します。製品やサービスの価値を再認識してもらい、利用を再開してもらうことを目指します。
詳しくは、以下の記事もあわせてご覧ください。
5. SaaSのKPI(5)リテンションレート(顧客維持率)
続いて、顧客維持率を表す「リテンションレート」を解説します。
リテンションレートは、前述のチャーンレート(解約率)と表裏一体の関係にあります。
両者のバランスを取ることが、SaaSビジネスの安定的な成長につながります。
5-1. リテンションレートとは何か
リテンションレート(Retention Rate:顧客維持率)とは、一定期間における顧客の継続利用割合を指します。
前出のチャーンレートは、一定期間に失われた顧客の割合を示すものでした。一方、リテンションレートは、一定期間の終わりに残っている顧客の割合を計算します。
よくある質問に、 「チャーンレートとリテンションレートは裏返しの概念なら、どちらか一方を計測すればいいのでは?」 というものがあります。
結論からいえば、両方とも追跡する必要があります。
リテンションレートとチャーンレートは、裏返しの概念であっても、足して100%になるわけではありません。リテンションレートの計算では、期間中に増加した新規顧客を除外するため、直接的にチャーンレートと対をなすものではないからです。
したがって、顧客の動向を理解するには、これらの指標を個別に、そして総合的に評価することが重要です。
リテンションレートの計算式は、以下に続きます。
5-2. リテンションレートの計算式
リテンションレートは以下の計算式で求められます。
リテンションレート =(期末の顧客数 - 新規獲得顧客数)÷ 期首の顧客数 × 100
たとえば、月初に1,000人の顧客がおり、1か月間で50人の新規顧客が増加、月末時点で995人の顧客が残っている場合、月次リテンションレートは以下のように計算されます。
月次リテンションレート =(995人 - 50人)÷ 1,000人 × 100 = 94.5%
5-3. リテンションレートから読み取れること
リテンションレートが表しているのは、顧客の定着や長期的な関係づくりの成否です。
具体的には、以下が読み取れます。
- 顧客体験の質:顧客体験(CX:カスタマーエクスペリエンス)の質は、リテンションレートに表れます。オンボーディング(導入支援)の充実度、製品やサービスの使いやすさ、カスタマーサポートの質、コミュニケーションの適切さなど、顧客体験のさまざまな要素がリテンションレートに影響を与えます。
- 製品・サービスの価値提供:高いリテンションレートは、提供している製品やサービスが顧客にとって価値があることを示しています。顧客のニーズを満たし、継続的に利用したいと思わせる価値を提供できているかどうかが、リテンションレートに反映されます。
- 事業の安定性と成長性:リテンションレートが高ければ、事業の安定性と成長性が高いと評価できます。既存顧客からの安定した収益を維持しつつ、新規顧客を増やしていくことで、持続的な成長が見込めるでしょう。
5-4. リテンションレートの改善策
リテンションレートを改善するためには、顧客の満足度を高め、継続利用を促進する施策が不可欠です。
具体的には、以下の施策が挙げられます。
- オンボーディングの最適化:新規顧客の最初の体験を向上させるため、導入支援プロセスを最適化します。わかりやすい使い方ガイドや案内を提供し、スムーズな利用開始を支援します。早期に製品やサービスの価値を実感してもらうことで、定着率の向上を図ります。
- 顧客エンゲージメント(顧客との絆・つながり)の強化:定期的なメールマガジンの配信や、ユーザーコミュニティ(ユーザー同士が交流できる場)の運営など、顧客との継続的なコミュニケーションを図ります。
- 製品やサービスの差別化:競合他社との差別化を図り、製品やサービスの優位性を維持・強化します。顧客のニーズや市場の変化を先取りし、競争力のある機能や価値を継続的に提供することで、顧客の他社への乗り換えを防ぎます。
詳しくは、以下の記事をあわせてご覧ください。
6. SaaSのKPI(6)MAU(月間アクティブユーザー数)
次に、ユーザーのアクティブ度(活性度)に関わる指標を確認しましょう。
月間アクティブユーザー数を表す「MAU」について詳しく解説します。
6-1. MAUとは何か
MAU(Monthly Active Users:月間アクティブユーザー数)とは、1か月間にサービスを利用したユニークユーザー数を指します。
「アクティブ」の定義はサービスによって異なりますが、一般的には月に1回以上ログインしたユーザーや、特定のアクションを行ったユーザーを指します。
6-2. MAUの計算式
MAUの計算式は、シンプルに以下のとおりです。
MAU = 月間にアクティブだったユニークユーザー数
たとえば、ある月に10,000人のユニークユーザーがアクティブだった場合、MAUは10,000人になります。
ここで留意すべきは、MAUがユニークユーザー数を表すという点です。つまり、同一ユーザーが月内に複数回アクティブになっても、MAUのカウントは1にとどまります。
このため、実際のアクティビティの総量よりもMAUの値は、通常小さくなります。
6-3. MAUから読み取れること
MAUが示しているのは、現在の利用者層の規模と、ユーザーエンゲージメント(ユーザーの積極的な関与)のレベルです。
- ユーザーベース(利用者層)の規模:MAUの絶対値は、サービスの利用者数の大きさを表します。競合サービスとのMAUの比較により、市場でのポジショニングを把握できます。
- 顧客の維持・定着の状況:時系列でMAUの推移を追跡することで、既存顧客の定着率やリピート率の動向を推察できます。MAUの急激な減少は、顧客離れが進行しているサインといえます。
- 新規顧客の創出効果:マーケティング施策やサービス改善施策による顧客開拓の効果は、MAUの増加としても捉えられます。
- 収益化の可能性:基本的に、MAUが大きいほどサービスの収益化の可能性は高まります。ただし、MAUの構成(無料会員と有料会員の比率など)や、ユーザー属性(年齢構成、地域分布など)を加味して総合的に判断する必要があります。
6-4. MAUの改善策
MAUを向上させるには、ユーザーがサービスに関与する頻度と深さを改善し、アクティブユーザー数を増やす必要があります。
そのためには、ユーザーの行動や心理を深く理解し、適切なタイミングで効果的なアプローチを行うことが肝要です。
- コアバリュー(核となる価値)の訴求:サービスの核となる価値や機能をわかりやすく伝え、ユーザーにサービス利用のメリットを実感してもらいます。価値の伝達を通じてユーザーの興味や関心を喚起し、活発な利用を促進します。
- 個別対応の推進:ユーザーの属性や行動履歴に基づき、一人ひとりに最適なコンテンツを提供することで、エンゲージメントを高められます。ユーザーの嗜好やニーズを的確に把握し、パーソナライズされた(個別最適化された)体験を実現します。
- 休眠ユーザー再活性化施策の実施:休眠ユーザーに対し、プッシュ通知やメール、再訪促進広告などを通じて再訪を促します。休眠の原因を分析し、ユーザーのニーズや課題に合わせたアプローチを行うことが重要です。
- ユーザーコミュニティの形成:ユーザー同士のつながりや交流を促進し、サービスへの愛着やコミュニティへの帰属意識を高めることも有効な手段です。ユーザーコミュニティを運営し、情報交換やイベント参加などの機会を提供することで、エンゲージメントの向上を図ります。
詳しくは、以下の記事もあわせてご覧ください。
7. SaaSのKPI(7)NPS®(ネット プロモーター スコア)
最後に、顧客ロイヤルティを測る指標として知られている、「NPS®」を見ていきましょう。
7-1. NPS®とは何か
そもそもロイヤルティ(loyalty)とは、直訳すれば「忠誠心」という意味です。
顧客がブランドや製品に抱く愛着や信頼、ひいきにする・支持する気持ちを「顧客ロイヤルティ」といいます。
NPS®(Net Promoter Score:ネット プロモーター スコア)は、顧客ロイヤルティを測る指標として知られています。
NPS®では、顧客に「この製品を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」と質問し、0から10までの11段階で評価を求めます。
出典:世界的な企業が活用するNPS®とは?持続的な成長力の原動力を徹底解剖
上記の質問に対する回答に基づいて、顧客を以下の3つのグループに分類します。
- 推奨者(Promoters、プロモーター):9〜10と答えた顧客
- 中立者(Passives、パッシブ):7〜8と答えた顧客
- 批判者(Detractors、デトラクター):0〜6と答えた顧客
出典:世界的な企業が活用するNPS®とは?持続的な成長力の原動力を徹底解剖
7-2. NPS®の計算式
NPS®は以下の計算式で求められます。
NPS® =[プロモーター(推奨者)の割合] - [デトラクター(批判者)の割合]
たとえば、100人の顧客にアンケートを実施し、推奨者が30人、中立者が50人、批判者が20人だった場合、NPS®は以下のように計算されます。
NPS® = 30% - 20% = 10
7-3. NPS®から読み取れること
NPS®は、以下のような情報を提供してくれます。
- 顧客ロイヤルティの状況:NPS®が高いほど、顧客ロイヤルティ(信頼・愛着度)が高いことを示しています。製品やサービスを支持し、積極的に味方となってくれる顧客が多いほど、顧客との良好な関係構築ができていると判断できます。NPS®は、顧客との絆の強さを示す重要な指標です。
- 競合他社へのスイッチ(乗り換え)の可能性:顧客ロイヤルティは競合他社へ乗り換えることなく、忠実に自社の顧客であり続けてくれる可能性を表します。NPS®が低い場合、特定のタイミング(例:競合他社によるキャンペーン)で、一気に顧客が流出するリスクもあるでしょう。NPS®は、リテンションレートの先行指標としても機能します。
- 口コミの可能性:NPS®が高い場合、ポジティブな口コミが期待できます。推奨者は自発的に製品やサービスの良さを周囲に伝える可能性が高く、新規顧客の増加につながります。反対に、NPS®が低い場合は、ネガティブな口コミが広まるリスクがあります。批判者による悪評は、ブランドイメージを大きく毀損する恐れがあるため、注意が必要です。
- クロスセル・アップセルの可能性:NPS®の高さは、クロスセル(追加購入)やアップセル(より高額な製品・サービスの購入)の可能性にも影響します。顧客ロイヤルティが高い顧客ほど、関連商品やグレードの高い商品の購入に前向きだと考えられます。
7-4. NPS®の改善策
NPS®を改善するためには、以下のような施策が有効です。
- 顧客の声の収集と分析:NPS®調査で得られたフィードバックを丁寧に分析し、顧客の真のニーズや課題を把握します。自由記述欄のテキスト分析や、個別インタビューの追加実施など、定性的な分析を行うことが重要です。顧客の声に真摯に耳を傾け、製品やサービスの改善につなげましょう。
- 顧客接点の強化:顧客とのコミュニケーションを密にし、良好な関係性を構築することが欠かせません。カスタマーサポートの充実化や、ユーザーコミュニティの運営、顧客イベントの開催など、顧客接点を強化することで、顧客との絆を深められます。一人ひとりの顧客に寄り添い、顧客体験の向上を図ることが大切です。
- プロモーター(推奨者)の協力推進:NPS®調査で特定された推奨者(プロモーター)と協働し、口コミマーケティングを促進します。プロモーターは、最も強力なアンバサダー(大使)です。プロモーターに対して感謝を伝えるとともに、SNSでの情報発信や知人への紹介を依頼することで、ポジティブな口コミの拡散を図りましょう。
- 従業員エンゲージメントの向上:従業員エンゲージメント(従業員の仕事に対する熱意や会社に対する愛着度・帰属意識)が高いと、NPS®も高くなる傾向があります。従業員が自社の製品やサービスに誇りを持ち、顧客に対して積極的に推奨できる状態を作りましょう。従業員満足度を向上させ、従業員が顧客の成功を我が事のように捉えて全社一丸となる文化の醸成が鍵となります。
詳しくは、以下の記事をあわせてご覧ください。
8. KPIをマネジメントしてSaaSビジネスの成長を加速しよう
本記事では「SaaSのKPI」をテーマに、以下を解説しました。
- MRR(月次経常収益)
- CAC(顧客獲得コスト)
- LTV(顧客生涯価値)
- チャーンレート(解約率)
- リテンションレート(顧客維持率)
- MAU(月間アクティブユーザー数)
- NPS®(ネット プロモーター スコア)
SaaSビジネスにおいて、KPIのマネジメントは成長の要となります。本記事で解説した7つの主要KPIを適切に運用管理することで、事業の健全性や成長性を把握し、改善につなげることができるでしょう。
なお、KPIマネジメントを効果的に行うには、データの一元管理と可視化が不可欠です。
「追跡すべきKPIは理解できたが、どう追跡していいかわからない」という場合には、CRM(顧客関係管理)システムを導入することで、各KPIの動向を俯瞰的に把握できます。
CRMについて詳しくは、以下のページにてご確認ください。 無料でも使えるHubSpotのCRM
※ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。