営業戦略の立案や見直しを効果的に行うには、フレームワークの活用がおすすめです。フレームワークに自社や業界の状況を当てはめて分析することで情報が整理され、自社の強みや課題が明確になります。
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本記事では、営業戦略と営業戦術に分けて、それぞれで活用できる16のフレームワークを紹介します。どのように営業戦略を立てれば良いのか迷っている担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
営業戦略・営業戦術にフレームワークを活用するメリット
ここでは、営業戦略・営業戦術の違いと、フレームワークを活用するメリットを解説します。
営業戦略と営業戦術の違い
営業戦略と営業戦術には、次のような違いがあります。
- 営業戦略:長期的な目標や方針を立案し、顧客に提供する価値を明確化するための計画
- 営業戦術:具体的な手法やアクションを通じて、営業戦略を実現するための実践的な取り組み
営業活動の計画を立てることは営業戦略に該当し、「いつまでに」「何を」「どれくらい」といった長期的な目標を定めます。一方で営業戦術は、目標達成のための具体的な手段のことを指します。営業戦略で立てた長期目標を「どのように」達成するかが営業戦術にあたるといえるでしょう。
フレームワークを活用するメリット
ここでは、営業においてフレームワークを活用する主なメリットを3つ解説します。
- 課題を発見しやすい
- 迅速に目標達成に近づける
- 提案に説得力が増す
課題を発見しやすい
フレームワークには、自社の課題を発見するために必要な情報を効果的に整理する役割があります。現状を踏まえたうえで、自社の課題や改善点を客観的な視点で洗い出すことが可能です。
例えば、企業の内部環境(強み・弱み)と外部環境(機会・脅威)を総合的に理解するための「SWOT分析」を活用すると、市場の状況も考慮した総合的な判断ができるようになります。
迅速に目標達成に近づける
何もない状態から営業戦略を立てるのは大変ですが、フレームワークに当てはめて情報を整理することで、迅速に目標達成へと近づくことが可能です。
フレームワークには、さまざまな種類があり、目的に合わせて使い分けたり、組み合わせたりするのがポイントです。自社が抱えている課題の解決につながるようなフレームワークを選びましょう。
提案に説得力が増す
フレームワークを活用すると、営業先への提案に説得力が生まれ、成約につながりやすくなります。自社の強みや商品の特徴などがフレームワークによって明確になり、より相手のニーズに合った提案が可能になるためです。
また、営業先の課題を自社がどのように解決できるのかを伝えられるので、説得力のある提案資料が作成できることもメリットのひとつです。
その他、抜け漏れを防げる、属人化を防げるといった効果も期待できます。
営業戦略に活用できるフレームワーク11選
ここでは、営業戦略に使える11のフレームワークを紹介します。
- 3C分析
- 4P分析
- 4C分析
- SWOT分析
- クロスSWOT分析(TOWS分析)
- STP分析
- VRIO(ブリオ)分析
- PEST分析
- バリューチェーン分析
- 5F(ファイブフォース)分析
- ランチェスター戦略
3C分析
3C分析とは、顧客/市場(Customer)・競合(Competitor)・自社(Company)の3つの要素を分析する方法です。顧客・市場に関する情報、競合他社の戦略や強み、自社の強みなどから、市場や外部環境に対する自社の立ち位置を明らかにするために用いられます。
具体的には、消費者のニーズや競合他社の商品・サービスの特徴、自社のブランドイメージ、市場ポジションなどを分析します。営業戦略を立案する際に、競合他社と比較した自社の商品・サービスの強みを明確に打ち出すことが可能です。
4P分析
商品(Product)・価格(Price)・流通(Place)・販売促進(Promotion)の4つの要素を分析するフレームワークです。どの商品をいくらで、どのようにして売るのかといった施策の立案に用います。
主にマーケティング施策の立案に用いられますが、営業戦略にも活かせます。例えば、企業が新しい商品を市場に投入する際、商品の特徴や利点を明確にし、競合他社の商品との差異化ポイントを強調することで、営業先の興味を引きつけられるでしょう。
また、自社商品の価格や販売チャネルなどを客観的に分析できるというメリットもあります。
4C分析
Customer Value(顧客価値)・Cost(コスト)・Convenience(利便性)・Communication(コミュニケーション)の4つの要素を分析する方法です。
- Customer Value(顧客価値):品質、デザイン性、ブランドイメージなど
- Cost(顧客コスト):商品やサービスの購入費用、時間的なコストなど
- Convenience(利便性):駅に近い店舗、いつでも注文できるネットショップ、わかりやすい決済方法など
- Communication(コミュニケーション):SNS、メルマガ、CMといったユーザーとの接点
4C分析は、企業視点の「4P分析」を顧客視点に置き換えたものといえます。例えば、4P分析の「価格(Price)」は、顧客視点では「Cost(コスト)」になります。
顧客視点で分析することで、見込み客や顧客のニーズの深掘りが可能です。
SWOT分析
SWOT分析は、市場の状況や自社の課題を把握するのに役立つフレームワークで、内部環境のStrength(強み)・Weakness(弱み)と、外部環境のOpportunity(機会)・Threat(脅威)の4つの要素で構成されています。
- Strength(強み):技術力、ブランド力、手厚いアフターフォローなど
- Weakness(弱み):認知度の低さ、コストの高さなど
- Opportunity(機会):消費者のニーズの変化、規制緩和など
- Threat(脅威):競合他社の台頭、経済不況、法規制の強化など
クロスSWOT分析(TOWS分析)
クロスSWOT分析は、SWOT分析で使用した4つの要素をかけあわせて分析する方法です。SWOT分析で明らかになった自社の強みや弱み、市場環境を踏まえて具体的な戦略を練る際に役立ちます。
- 強み × 機会(SO戦略):機会を活かして、強みを発揮する
- 弱み × 機会(WO戦略):機会を活かして、弱みを改善する
- 強み × 脅威(ST戦略):脅威に、強みで対抗する
- 弱み × 脅威(WT戦略):弱みを知り、脅威の影響を小さく抑える
例えば、「弱み × 脅威」の分析をすると、起こり得る最悪の状況を避けるためのリスク管理が可能になります。
STP分析
STP分析のSTPは、Segmentation(市場細分化)・Targeting(ターゲットの決定)・Positioning(ポジションの明確化)の3つの要素で構成されます。企業が市場での競争力を高めるために、どの顧客層に対してどのような価値を提供するかを明確にするためのフレームワークです。
- Segmentation:市場を異なるニーズや特性を持つグループ(セグメント)に分ける
- Targeting:細分化された市場セグメントの中から、自社の商品やサービスが最も効果的に提供できるターゲットセグメントを選定する
- Positioning:ターゲットセグメントに対して自社のポジションを明確化し、競合他社との差異化をはかる
VRIO(ブリオ)分析
VRIO分析は、企業が持つリソースや能力といった経営資源が持続的に競争優位を持てるかどうかを評価するためのフレームワークです。VRIOは、次の4つの要素から構成されています。
- Value(経済的価値):自社の持つ経営資源で、市場に価値を提供できるか
- Rarity(希少性):自社の経営資源に希少性があるか(一般的に特定の専門知識や特許技術などは希少性があると考えられる)
- Imitability(模倣可能性):競合他社が模倣できるか(高度な技術や長年の経験によるノウハウなどは模倣が難しい)
- Organization(組織):資源を有効に活用できる組織体制か(従業員の能力向上プログラム、適切なインセンティブ制度があるなど)
VRIO分析をすると、企業が優先して活用するべき資産を明確にできます。
PEST分析
PEST分析は、企業の外部環境を評価するためのフレームワークで、政治(Politics)・経済(Economy)・社会(Society)・技術(Technology)の4つの要素で構成されています。
企業を取り巻くこれらの外部環境は、ビジネスにも大きな影響を与えます。PEST分析を行うことで、企業が直面する機会や脅威を理解し、戦略的な意思決定に役立てることが可能です。
- Politics(政治):政府の政策や規制、政治的安定性など、ビジネスに影響を与える政治的環境(例:税制改革、労働法の改正)
- Economy(経済):経済の状況やトレンドなど、企業のビジネスに影響を与える経済環境(例:経済成長率、失業率、インフレ率、為替レート)
- Society(社会的要因):価値観、人口動態など、企業のビジネスに影響を与える社会的環境(例:消費者のライフスタイルの変化、健康志向の高まり、教育水準の向上)
- Technology(技術):技術の進歩や革新など、ビジネスに影響を与える技術的環境(例:新技術の導入、研究開発の進展)
PEST分析によって、企業は外部環境の変化やトレンドを把握し、それにもとづいた営業戦略を策定・調整できます。
バリューチェーン分析
バリューチェーン分析とは、企業が商品やサービスを消費者に届けるまでに行う一連の活動を可視化することです。活動のプロセスは、「主活動」と「支援活動」に分けられます。
- 主活動:製造、流通、マーケティング、販売など
- 支援活動:調達、技術開発、人的資源管理など
原材料の調達から消費者への販売までを包括的に捉え、それぞれの活動がどのように価値を創造しているのかを分析します。自社の強みや弱みを客観的に把握し、経営資源を適切に分配できる点がメリットです。
5F(ファイブフォース)分析
ファイブフォース分析は競争戦略の立案に適した分析ツールで、企業を取り巻く業界環境を評価するために使われます。
次のファイブフォース(5つの脅威)から成り立っており、業界内の競争構造を理解するのに役立ちます。
- 買い手(ユーザー)の交渉力:顧客から企業に対する価格の値下げや商品・サービスの品質向上などを要求する力(顧客の交渉力が強ければ売り手の利益は下がり、ブランド力や代替品などに左右される)
- 売り手(仕入先)の交渉力:仕入先から企業に対する部品・原材料・商品などの価格交渉力の強さ(価格寡占業界や独占的技術などにより、買い手は売り手の提示価格を受け入れざるを得なくなる)
- 業界内の競争:既存競合他社間の競争の激しさ
- 新規参入者の脅威:業界への参入のしやすさ
- 代替品の脅威:既存商品よりもコストパフォーマンスが高い代替品が生まれる可能性
ファイブフォース分析を行うと、リスクを軽減するための戦略を検討できます。例えば、新規参入の脅威がある場合は、ブランド力や特許などの競争優位性を構築するといった対策が考えられるでしょう。
ランチェスター戦略
ランチェスター戦略は、競争戦略のフレームワークです。量(人数などの資源)や質(技術力など)に着目して、業界でシェアが1位の企業を「強者」、それ以外を「弱者」と定義するのが特徴です。
- 強者:人材や資金などの資源が豊富で、市場占有率が高い
- 弱者:資源が限られており、市場への影響力が小さい
「強者」と「弱者」は、それぞれ異なる戦略を採用する必要があります。例えば、人材や資金が限られている「弱者」が市場シェア1位の「強者」に勝つには、ニッチな強みに焦点を当てて、その領域でトップを目指す戦略などが有効です。
営業戦術に活用できるフレームワーク5選
ここでは、営業戦術に活用できるフレームワークを5つ紹介します。
- SPIN
- BANT
- DMUマップ
- MEDDIC(メディック)
- FABE(ファブ)分析
SPIN
SPINは、営業におけるヒアリングのフレームワークです。次の4つの項目についてヒアリングを行うことで、見込み客がまだ気づいていないニーズを引き出せる可能性があります。
- Situation(状況質問):営業先の現在の状況
- Problem(問題質問):営業先の企業が抱えている課題や問題
- Implication(示唆質問):課題が与える悪い影響やその解決によって得られる利益や価値を気づかせる
- Need-payoff(解決質問):顧客のニーズや要求にもとづいた提案を行い、解決策を気づかせる
引き出したニーズにもとづいた提案を行うことで、商品・サービスに興味を持ってもらいやすくなるでしょう。
BANT
BANTは、主にBtoB営業のファーストコンタクトにおいて営業担当者が顧客の情報を把握するために用いるフレームワークです。購買決定のボトルネックになりやすい予算や決裁権などの項目をあらかじめ押さえておくことで、営業活動をスムーズに行えます。
- Budget(予算):顧客が商品やサービスにどれだけの予算を割り当てられるか
- Authority(決裁権):購入に対して決裁権を持っているか、もしくは決裁権を持つ人物に提案できているか
- Needs(ニーズ):商品やサービスを必要としているか
- Timeframe(導入時期):商品やサービスをいつ導入したいと考えているか
また、この4項目に競合(Competitor)を加えて「BANTC(バントシー)」とする場合もあります。
DMUマップ
DMU(Decision Making Unit)マップは、企業や組織における購買決定に関与する人物やグループを組織図のような形で視覚的に整理するためのツールです。特にBtoB営業において、営業先で誰がどのような役割を持って意思決定に関与しているのかを理解するために活用します。
意思決定に関わっている人物を明確にするために活用されるツールであることから、関係者の役職や名前まで詳細に把握することが大切です。
MEDDIC(メディック)
MEDDICは、購買につながりそうな見込み客を見極めるためのフレームワークです。次の6つの要素を含む質問を投げかけ、営業先の状況を理解して判断します。
- Metrics(測定指標):営業先が求める成果や目標
- Economic Buyer(決裁権限者):購入の決定権を持つ人物
- Decision Criteria(意思決定基準):購買決定を行う際の評価基準
- Decision Process(意思決定プロセス):購買決定にいたるまでのプロセス
- Identify Pain(課題):営業先が抱えている課題や問題点
- Champion(擁護者):営業先の社内で提案を推進してくれる人物
FABE(ファブ)分析
FABE分析は、自社の商品・サービスの特徴を営業先に対して効果的に伝えるためのフレームワークです。FABEは、Feature(特徴)・Advantage(優位性)・Benefit(利益)・Evidence(証拠)の頭文字を取ったものです。
- Feature(特徴):商品やサービスの具体的な機能や特性(例:新しいスマートフォンが5Gに対応している)
- Advantage(優位性):競合商品と比較して、どのような優位性があるか(例:5G対応のため、インターネット接続が高速である)
- Benefit(利益):顧客にもたらす具体的な利益。顧客の視点に立ち、その利点がどのように生活や仕事に役立つか(例:高速インターネット接続により、動画のストリーミングやオンライン会議が途切れずにスムーズに行える)
- Evidence(証拠):利点や利益を裏付けるための証拠で、具体的なデータや顧客の声、第三者の評価などが含まれる(例:ユーザーレビューや専門家の評価、5G対応のスピードテスト結果)
FABE分析によって、商品・サービスの価値を具体的かつ説得力のある形で説明できます。
営業戦略・営業戦術にフレームワークを活用するときのポイント
営業戦略・営業戦術にフレームワークを用いる際には、次の3つのポイントを押さえましょう。
- フレームワークの活用が目的にならないようにする
- 複数のフレームワークを組み合わせる
- 戦略立案の段階に時間をかけすぎない
フレームワークの活用が目的にならないようにする
フレームワークを活用した分析を始めると、フレームワークの活用自体が目的になってしまうことがあります。フレームワークはあくまでも手段であり、目的は営業目標の達成や戦略の策定です。分析しただけで終わってしまうのではなく、分析によって着手すべき課題が見つかったら、営業戦略・戦術に活かしましょう。
具体的には、フレームワークで得た分析結果を具体的な行動計画に落とし込み、実行に移します。実行後は、定期的に成果を確認し、必要に応じて戦略を見直すことも大切です。フレームワークは最終目標にたどり着くための手段であると認識し、最終的な目標や目的を常に念頭においておきましょう。
複数のフレームワークを組み合わせる
複数のフレームワークを組み合わせて分析すると、単体のフレームワークだけでは見えない視点や解決策を得られることがあります。
例えば、SWOT分析で内部・外部環境を把握し、STP分析で市場セグメントを特定するといった使い方が可能です。具体的には、SWOT分析で「技術力は高いが市場認知度が低い」という内部環境を把握したあとに、STP分析を活用します。それにより、「中小企業をターゲットにした低価格で高品質なサービスを提供する」というポジションを狙う戦略を立てることが可能です。
ほかにも、PEST分析とSWOT分析の外部要因はつながる部分があるため、組み合わせると効果的です。例えば、PEST分析であがった「政府のデジタル化推進政策」をSWOT分析で「機会」として特定し、新規市場参入の成功確率を高めるための戦略を立てます。
このように複数のフレームワークを組み合わせることで、多方面からの分析が可能になり、より効果的な営業戦略の立案につながります。
戦略立案の段階に時間をかけすぎない
市場環境や顧客ニーズは常に変化するため、スピード感を持った対応が求められます。完璧な戦略を求めるよりも、素早く実行してPDCAサイクルを回すと良いでしょう。
分析や戦略立案のステップに時間をかけすぎず、速やかに実行段階へと移ることが重要です。
営業のフレームワークを顧客への価値提供につなげよう
フレームワークは、体系的に情報を整理するための枠組みで、営業戦略や営業戦術を決めるための有効な手段です。
営業活動が最適化されることで、自社の商品・サービスを必要とする見込み客に情報が届きやすくなります。顧客へ価値を提供するための環境が整うことが、結果的に競争力の維持や売上の向上につながるでしょう。
自社の強み・弱みや市場を取り巻く環境の分析や競合他社との比較にフレームワークを活用し、客観的な視点で営業戦略を立ててみてはいかがでしょうか。